東京高等裁判所 昭和61年(ラ)571号 決定
本件記録によれば、千葉地方裁判所は昭和六一年一月二七日債権者地銀生保住宅ローン株式会社の申立により債務者を中村清とし、共有者中村清ほか二名の原決定別紙目録(3)の物件について競売開始決定をし(昭和六一年(ケ)第四三号事件)、同年二月一四日同債権者の申立により債務者を中村清とし、第三取得者花井巌夫の原決定別紙目録(1)(2)の物件について競売開始決定をし(昭和六一年(ケ)第四四号事件、以下両事件を合せて「本件各事件」という。)、右(1)ないし(3)の物件(別紙物件目録記載の不動産、以下「本件物件」という。)を一括して最低売却価額を一八七四万円として同年八月二〇日から同月二七日までの期間入札に付し、同年九月八日売却決定期日に五七六〇万円の額で最高価買受の申出をした抗告人三代川不動産に対し本件物件の売却を許可する旨の決定(原決定)をしたこと、右抗告人は、不動産売買の仲介を業とする会社であるが、同社代表者三代川徹は同年八月中旬ごろ競売物件を入手しようと考え、業者間の情報誌「金融内報」を参考にして社内で検討した結果、候補として本件物件と、千葉地方裁判所昭和六一年(ケ)第二二二号事件(以下「第二二二号事件」という。)の物件及び同裁判所昭和六一年(ケ)第九九号事件(以下「第九九号事件」という。)の物件があったが、本件物件は公道に接していないため入札しないこととし、第二二二号事件の物件と第九九号事件の物件を会社として入札し、入札価額は第二二二号事件について五七六〇万円、第九九号物件について四六一万円とすることを定め、三代川徹の娘で同社の経理を担当していた三代川千鶴子に入札手続をするように命じたこと、三代川千鶴子は、同月二五日保証金としてそれぞれ入札価額の二割相当額に当る第二二二号事件の物件についての一一五二万円、第九九号事件の物件についての九二万二〇〇〇円を振込送金し、帰社してから「金融内報」を参照しつつ入札書、入札保証金振込証明書を作成したところ、第二二二号事件の物件について入札する意思で、入札書の入札価額欄に五七六〇万円、保証金額欄に一一五二万円と記入し、一旦用事のため記載を中断して離席し、戻ってから机上の「金融内報」を見ながら入札書の事件番号、物件番号を記入したところ、「金融内報」が裏返しになっていたため、誤って本件各事件の事件番号、物件番号を記載してしまい、同日右入札書を第九九号事件の入札書と合せて同裁判所執行官宛郵送したことが認められ、以上の事実は、本件物件の最低売却価額が一八七四万円であったのに対し右抗告人が入札価額を五七六〇万円として保証金を提供した事実からもこれを肯定することができる。
右事実によれば、抗告人三代川不動産は、第二二二号事件について入札しようとして従業員である三代川千鶴子において誤って入札書に別事件である本件各事件の事件番号、物件番号を表示し、外形上本件各事件について入札したことになったもので、抗告人三代川不動産の右買受申出の意思表示には要素の錯誤があり、民法九五条により無効であるというべきであり、また、右のような過誤に陥ったのも抗告人三代川不動産の経理を担当する三代川千鶴子が右抗告人の使者としてした単純な事務処理上の手違いによるものであって、右抗告人の代表者である三代川徹自らの過誤に基づくものではないことにも徴し、右抗告人に重大な過失があったものとすることはできない。
そうすると、このような場合には民事執行法七一条二号を類推適用し、右買受の申出に対してなされた本件売却許可決定は違法なものとして、同法七四条一、二項によりこれを取消すべきものと解される。
(中村 篠田 関野)